デザインの話「光ある場合 −ノスタルジーを巡る問いの在処−」

光ある場合

奈良・町家の芸術祭「はならぁと2021」のサテライトとして桜井・戒重(かいじゅう)エリアで行われる展覧会、
光ある場合 -ノスタルジーを巡る問いの在処-」のヴィジュアルを担当させていただきました。

こちらのヴィジュアル制作にあたり、考察したことを書き連ねようと思います。

今回ご依頼いただいた内容は「フライヤー」の制作でした。
そしてご提案・制作したものは
「A3ポスター 兼 十字折りA5ハンドアウト」です。

目次

なぜこの体裁にしたのか

まず今回のポイントになる部分、ただの芸術祭ではなく、
「町家の芸術祭」ということです。
この町家というところに着目し、どのようなことが想定できるかを考えました。

ご依頼いただいたクライアントさまは「かいじゅう未来計画」という、この桜井・戒重(かいじゅう)地区を盛り上げようと立ち上げられた団体です。
この展覧会を「かいじゅう未来計画」さまの立ち上げられたその意思や背景も存分に込め、地区全体をもっと巻き込むコミュニティを念頭に意識し、仕掛け、仕組みを考察しました。
少し噛み砕くと、ただ広告物をデザインするのではなく、この地区での「コミュニケーションのあり方」そのものをデザインしようと試みました。

望まれていた従来のフライヤーの体裁では、町屋の芸術祭と題しているのに対し、コミュニティの繋がりとしては希薄で店先に数部置かせていただくくらいだと予想しました。
そこで考えた、
「A3ポスター 兼 十字折りA5ハンドアウト」では置いていただく際は場所を取らない「A5サイズのハンドアウト」として機能し、この展覧会にご賛同をいただけ、応援しよう!と思っていただけた地域の方には、広げて「A3サイズのポスター」としてお貼りいただけるようになっています。

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通常ポスターは「B2サイズ」がスタンダードですが、「A3サイズ」ですと通常よりも場所を取らず、ポスターがもつ特有の「壁面の占有率」を下げ、心理的な束縛感、圧迫感も減少されます。よりわかりやすいようにと表裏を隣に並列して置いていただいた場合でも「A2サイズ」と、従来のポスターよりもまだ小さく配することが可能となりました。

折り畳むとA5サイズとかなり小さく、広げると程よく大きくなるこの「仕組み」により、町の個人商店さまから会社さまにも心理的負担をかけずに快くご協力をいただける体裁となっています。

ヴィジュアルの話

今回ポイントとなる折加工。
折った時に何が見えるべきなのか、ここは最後の最後まで議論がありました。

まずはタイトル、
これは言わずもがなマストです。

次に会期、
ここはあえて見切れを入れていつまで開催するのだろう?という問いを作ることでこのポスターを広げる行為をアフォードしています。

並んで、「はならぁと2021」と「桜井・戒重エリア」の表記。
これがなければ何の展覧会かがわからないのでこちらもマストです。

そして、参加作家名。
こちらが最後の最後まで議論したポイントになります。
せっかくなのでボツになったものも公開しようと思います。

比較

ご覧いただきますとすぐわかるように、作家名の表記を和英どちらにするかを悩みました。
「町屋の芸術祭」なので作家名を日本語にした方が親切ではないか、という議論もありましたが、他の要素の「タイトル」や「会期等」が日本語表記であることで、作家名も日本語にすると全ての要素にコントラストが効かず結果、全てが埋もれてしまうことはそれこそ本末転倒だという懸念から、折り畳んだ際には英語表記を採択することにしました。
外国から参加される作家さんも2名いらっしゃったので、英語表記だと何て読むのだろう?というフックが効いて、日本語表記の箇所もご覧いただける流れも自然に出来たように思います。

そしてもうひとつ大事な箇所である、主催/共催/協賛の表記です。こちらは折り畳んだ際に埋もれないように裏面に配することにしました。
通常であれば折った際に、中に埋もれてしまう箇所ですが、折りの順序を変えることでそれを克服しています。

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写真と図の話

写真はあえて、フィルムカメラ、デジタルカメラ、iPhoneで撮った写真を混ぜて用いることで様々な時代の在り方を表すことにしました。通常のデザインの観点から言えば写真のトーンを揃えることが正義であるなか、そこを崩すことにより独特の紙面構成になっています。そしてこの写真にはもう一つ秘密がありますが、それはこの展覧会場にご来場いただけた方のみがわかるような体験も加えています。
図には会場の図面、コンセプト図、設計図を背景に配して、そこにもこのプロジェクト全体の時間の流れを感じられるものとなっています。

光の話

タイトルに出てくる「光」というキーワードをどう取り入れるかを考えました。本展ディレクターである池田昇太郎さんのステートメントである詩を、インクは乗せずにニス加工のみで表記しています。まさに「光」で可視できる仕掛けとなっています。様々な角度に揺らしながら詠む、という行為はこの「かいじゅう未来計画」さまの地域に対する働きかけや想いとリンクしています。

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おわりに

今回のデザインは私のなかで、広告物をデザインしたというよりは、「コミュニケーションをデザインした」という感触が強くありました。
ですが、それはいたって普通といいますか、グラフィックデザインの本来あるべきカタチだと思います。
ただヴィジュアル的な表現だけに落とし込むのも悪くないと思いますが、様々な事象や、ヒトとヒトとを結びつけられるデザインの可能性を今回のお仕事でまた再確認出来ました。

何かを作る時には必ず、クライアントさまの希望や予算、制約、政治的なことも関わってきます。その様々な枠組みの中で何が出来るかを考え、ときには、ある意味では部外者でもあるデザイナーがここでその枠組みを疑い、反旗を翻す勇気も必要だと思っています。

例えばクライアントさまから「こういうものが欲しい」とご依頼を頂いてもそれが抱えている問題の最適解かどうかはわかりません。それに対して、言語化・視覚化のプロである私たちから、どのような提案が出来るのか。
自身の枠組みも取っ払いながら出来る限り、いや、それ以上に考え模索し、様々なご提案を柔軟にしていければと常に考えています。

まだまだ落ち着かない世の中ではございますが、私たちデザイナーはデザインという言語を旗に用いる、いわば応援団のようなものだと思います。
応援したいと心から想える大切な方々と、二人三脚でこれからも。

オオツキチヒロ

光ある場合

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